野口医院
2018-5-2

5月のレコードギャラリー( ジュリー・ロンドン)





 今月は、セクシーハスキーヴォイスのジャズ・ボーカリスト「ジュリー・ロンドン」です。
 本名は、ジュリー・ペックとしてカリフォルニアに1926年に生まれました。ジュリー・ロンドンとしての経歴では、彼女がいわゆる芸能一家に育っているところです。両親は歌と踊りのチーム(ヴォ―ドヴィリアン)を作って舞台に出演し、ラジオの番組まで持っていたそうです。両親のラジオ番組で歌を歌ったりもしていたようです。その後、関係者の目にとまり、映画にも出演しますが、何よりボビー・トゥループの存在でした。テレビドラマ『ルート66』の主題歌の作曲者でもあります。
 ジャズの世界に通じていたトゥループはジュリーの才能を見いだし、本格ジャズ歌手へと指導しました。一躍スター歌手の地位を獲得したのです。それと同時に女優業も復活、彼女の多彩な活動が1950年代半ばに開花。10代の頃から映画に出演し、銀幕デビューは1944年、彼女が18歳という時でした。
 その後50年代になるとジュリー・ロンドンはシンガーとしても成功、女優としてもキャリアを着けて行きました。1955年後半に、バラード「Cry Me A River」でヒット曲となりました。
 それを受けてアルバム『Julie Is Her Name』がすぐにリリースされ全米2位を記録。セクシーという言葉も時代とともにずいぶん変化してきたと感じますが、ジュリー・ロンドンの時代は50年代半ばから60年代という古き良き時代に、センスに満ちたセクシーさこそ求められて、彼女の端正で肉感的な容姿に加えハスキーなセクシーボイスで一斉を風靡しました。
 少し先輩のアニタ・オデイ、ジュン・クリスティー、クリス・コナー、ヘレン・メリルとハスキーな白人女性ボーカルの黄金時代の中で、ジャズ・フィーリングとポップス的親しみやすさを併せ持った彼女の存在は次の時代にもつながる多くの可能性をはらんでいたのではないでしょうか。
 有名な「Cry Me A River」を初め 「I Should Care」「Gone With The Wind」などが印象的です。名手バーニー・ケッセルのギターが粋なセンスを盛りたて、おしゃれなアルバムに仕上げています。ジュリー・ロンドンは、1956年にさらに2枚のアルバム『Lonely Girl』と『Calendar Girl』をリリースし、彼女独特のスモーキーでジャジーなヴォーカルを披露。その後1958年同じリバティから『Julie Is Her Name, Volume Two』をリリース。ボビー・トゥループを迎えたのでした。ちなみに翌年二人は結婚しています。
 このアルバムは、彼女の洗練された声と品格のある楽曲が世に届けられた作品になっています。バーニー・ケッセルの代わりのハワード・ロバーツとベーシストのレッド・ミッチェルにサポートされています。トリオ編成は1955年の『Julie Is Her Name』で確立されたもので、冒頭の「Blue Moon」は印象的です、ジョージ&アイラ・ガーシュウィンの「How Long Has This Been Going On」アーヴィング・バーリンの「I Got Lost In His Arms」で締めくくられ本作は、セールスとしては前作ほど売れなかったもののより洗練された内容となっているように感じます。
 アニタが歌唱テクニックを通して自己表現するタイプだとしたら、彼女は「人柄」から来る歌から漂い出すキャラクター自体で勝負しているように思います。ヴォーカルだけではなく、演奏が醸しだす気分や雰囲気といった漠然とした気配から彼女のキャラクターを読み取り、それに対して愛着を抱く傾向が思いのほかに強いように思います。それぞれのミュージシャンの微妙な表情の差異などは、ちゃんと演奏を聴いていないと聴き分けられないのかとも感じますが、そういう意味では、彼女はまさにジャズ・ファン好みの歌手なのかも分かります。
 他方、彼女の代名詞ともなった「スモーキー・ヴォイス」のため、まさに霞がかかっている印象ですが、それこそがジュリーの持ち味で、一種のミステリアスな風情を醸しだしているのでしょう。そして自分の世界に惹きよせるタイプかと思います。
 もちろんそれがジャズ・ヴォーカルの王道なのですが、決定的にジュリーが上手いと思うのは、個人キャラ+状況設定の巧みさなのでは。あるときはセクシー・アイドルであり、あるときは親しみやすい隣のお姉さん、そしてまたときによっては素朴なカントリー・ガールにもなれる複合キャラの魅力なのです。このあたりは女優ならではの特技なのかと。彼女の音源から、巧みな「キャラ設定」と優れたバランス感覚が彼女の特長だと思うところです。
 彼女の数あるアルバムて一番良く聴くの『All Through The Night』(1966年)コ―ル・ポ―タ―の楽曲を歌っています。アルトサックスのバド・シャンクをはじめバックのミュージシャンが素晴らしいです。「I've Got You Under My Skin」や「So In Love」など内容がいいです。
 60年代に日本にも夫婦で来日好評を博しています。トゥループは99年に心臓発作で亡くなりますが、翌2000年にジュリーはあとを追うようにして亡くなっています。そしてふたりは仲よくロサンゼルスの墓地に埋葬されているそうです。どちらかというと私生活の不遇さと引き換えにジャズ・ヴォーカリストとしての名声を得たスターたちが多い中、彼女はそのセクシー・イメージとは裏腹に、思いのほか「常識人」としての優れたバランス感覚が聴き手の心を和ませているように思えます。
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