野口医院
2017-11-5

11月のレコードギャラリー(ダラ・ブランド)




 今月は、孤高のピアニスト ダラ・ブランドです。
 彼の印象は、アフリカの大地をイメージにワールドミュージック的な響きを持ち、またゴスペル色に全面的に押し出して、ジャズ・ピアノを弾き続けているピアニスト。それがAbdullah Ibrahim(アブドゥーラ・イブラヒム)、昔の名前は、Dollar Brand(ダラー・ブランド)。1934年、南アフリカのケープタウンに生まれ。63年にチューリッヒで、デューク・エリントンの目にとまります。65年に米国に渡り、68年にはイスラム教に改宗。モンクやエリントンの影響を受けつつ、独特な音世界を確立。絵に描いた様な、ジャズの音の原風景を彷彿とさせてくれます。
 最初に彼れを聴いたのは、「African Piano」(1969年)。彼が生まれ育った街、ケープタウンでは民族色の強い宗教音楽がアメリカのゴスペルやジャズと並んで日常的に演奏されていたそうですが、そのイメージをピアノ・ソロで綴ったような、ある意味ファンキーでソウルフル、そしてセンチメンタルなソロピアノが素晴らしいです。
 しかし70年代に入ると、アパルトヘイトによる人種差別や厳しい政治的な状況により亡命生活も余儀なくされ、祖国の南アフリカを離れて、自らのルーツと表現を見つめながら、その音楽世界を極めてゆきました。
 今年83歳を迎えた彼は近年、日本にもたびたび来日して大きな感動を与えています。惜しまれるのが2年前上賀茂神社でのコンサートですが、参加出来なかった事です。まさしく孤高にして、行った方に伺うと、最高のパフォーマンスと精神的な繋がりをも生む音空間、究極の芸術表現との例えでした。かのネルソン・マンデラ大統領の就任時に演奏したことも、その存在の大きさを物語っていると思います。
 今までにリリースした作品は100作品を越えていますが、Enja盤の諸作品。エリントンをこよなく尊敬する彼は「エリントンに捧ぐ」(1974年)を追悼の意を込めて発表、個人的にはア-チ・シェップとの共演盤「デュエット」(1978年)シェップのサックスのマウスピ-スに息を吹き込み、人間の声で言えばハスキーボイスで切なる音と淡々と落ち着いたピアノで応酬する、デュオの醍醐味を作っています。
 最近の作品では「Song is My Story」(2015年)何より音楽を綴る手法は変わることなく、基本的にはすべてが即興です。彼曰く「心に湧きあがったものをそのまま音にしていくから、ストーリーはその時に生まれるんだ。生み出した音楽が自分を導いていくから、すべては自然に流れるに任せている」と。しかしそうした完全即興にあっても、時代を越えて表現を音に託してぶれる事ない姿勢には強く感銘を受けます。



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